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ゲイリー・オールドマン主演

音楽の天才が遺した「不滅の恋人」への手紙『不滅の恋/ベートーヴェン』

音楽の天才が遺した「不滅の恋人」への手紙『不滅の恋/ベートーヴェン』

時は1827年、偉大な音楽家、ベートーヴェンが天に召されます。大勢の人が集まる教会での葬儀に、喪服の女性が映し出されます。 それぞれの想いを秘め、葬儀に参列する女性とは裏腹に、ベートーヴェン宅では身内で相続をめぐり、口論となります。ベートーヴェンの弟子、シンドラーは彼の遺言状から、全ての楽譜、財産の相続人と指定された「我が不滅の恋人」と記された女性を探しに向かいます。 この作品は、シンドラーとともに不滅の恋人の正体を追いながら、ベートーヴェンの生涯を紐解いていく物語です。

「不滅の恋人」と記された相続人

死後遺された手紙を頼りに、シンドラーは馬車でカールスバートのスワン・ホテルへ向かいます。かつてこのホテルを訪れ、ベートーヴェンと逢う約束をしていた女性こそが、ベートーヴェンの「不滅の恋人」でした。
しかし、宿泊した時の女性のサインはうまく読み取れず、彼女は顔を極力隠していたので、その正体は不明です。
当時ホテルで対応した年配女性シュトライヒヤー曰く、女性は何日もベートーヴェンの到着を待っていたものの、シュトライヒヤーが届いた手紙を食事と一緒に部屋へ持って行った直後にホテルを出発したそうです。
その後到着したベートーヴェンの荒れ方は相当なものだったと語るのでした。

伯爵夫人ジュリエッタ

次にシンドラーは、昔ベートーヴェンと噂があったものの、現在はガレンブルク伯爵と結婚した、ジュリエッタを訪ねます。
シンドラーと二人きりになったジュリエッタは、「私は彼を愛していました」と告白します。
ジュリエッタ、17歳の時でした。美しいジュリエッタに、ベートーヴェンはピアノ教師を申し出ます。二人は激しく愛し合うようになりましたが、ジュリエッタの父のもとへはガレンブルク伯爵から結婚の申し込みがありました。ベートーヴェンとの結婚を望むジュリエッタでしたが、ベートーヴェンが一年ほど演奏も作曲もしていないことから、娘の将来を父は心配します。

その後ベートーヴェンの聴力が弱っていることをジュリエッタ父娘が知り、知られたことで裏切られたと激怒したベートーヴェンは、ジュリエッタの元を去りました。

ヨハンナとの愛憎

マエストロ・ベートーヴェンの遺言を守るべく駆け回るシンドラーに、ベートーヴェンの弟は、今は天に召されたもう一人の弟・カスパルと、その妻・ヨハンナの結婚の時のことを話します。ベートーヴェンは弟の結婚を快く思う人物ではなかったと言うのです。
カスパルがヨハンナを花嫁としてベートーヴェンたちに紹介した際、ベートーヴェンは「何かの冗談か?」と冷たく言い放ち、「誰の相手でもする」とヨハンナを侮辱します。ヨハンナは「過去に恋人はいたけれど、罪ではないはずよ」と言うのでした。
それでもベートーヴェンのヨハンナに対する憎しみは消えず、カスパルとヨハンナの家に押し入り、警察に「売女を捕えろ!」と訴えます。
しかし、そこでベートーヴェンは、二人が結婚したこと、ヨハンナが身ごもっていることを知らされます。

「彼は偉大すぎた」エルデーディ伯爵夫人への訪問

シンドラーはハンガリーヘ、エルデーディ伯爵夫人を訪ねます。エルデーディ伯爵夫人は気さくにシンドラーを迎えました。エルデーディ伯爵夫人は、ベートーヴェンとの出会いをシンドラーに語り始めます。
演奏会の日、エルデーディ伯爵夫人は、ピアノを弾きながら指揮をするベートーヴェンの演奏に聴きいっていました。しかし聴力の弱まった彼と、彼の音楽についていけない楽団の間には溝が生まれており、演奏は途中で途絶えます。人々の嘲笑の中、エルデーディ伯爵夫人は立ち上がり、壇上にいるベートーヴェンの腕を取り、その場を後にします。エルデーディ伯爵夫人は当時、夫と別れ三人の子どもとともにウィーンで暮らしていました。エルデーディ伯爵夫人は、荒れ果てた部屋で話しかけても気付かないベートーヴェンの肩にそっと手を置きます。振り返ったベートーヴェンは小さな黒板を手渡し、「書いてください」と伝え、気性の激しい二人の、穏やかな関係が始まります。

しかし、ナポレオンの昼夜を問わないウィーン攻撃により、エルデーディ伯爵夫人も大切な存在を失い、失意の中にいました。彼女の元を訪れたベートーヴェンは「音楽で訴えたい」と、音楽活動を開始します。幸福な時間を二人は過ごし、エルデーディ伯爵夫人はベートーヴェンを愛していましたが、「ベートーヴェンはたぶん違う」とシンドラーに話します。

「ソナタ クロイツェル「と託された手紙

「不滅の恋人」の糸口を探すシンドラーは、昔「ソナタ クロイツェル」の演奏を聴いていた時にベートーヴェンから「この曲を書いた時の私の心がわかるか」と問われたことを思い出します。「男が愛する女のもとに急いでいる」、「これは焦る男のイラつく心の音だ」、「音楽が表すのは――”生き方”だの”考え方”などではなく――ありのままの事実だ」と。

ベートーヴェンが恋人と逢う約束をしたホテルに送った手紙は「私の天使 私のすべて 私の分身 今日は少しだけ書こうあなたの鉛筆で」と始まり、明日まで宿に着けず会えないもどかしさが綴られています。そして、「結ばれていたなら、苦しまないで済むのに…」と。秘められた恋をつなぐはずだった、偉大な音楽家の綴った手紙は、運命の些細なすれ違いにより、二人の心に大きな軋轢を生みだします。ベートーヴェンが天に召された後にその手紙は「不滅の恋人」へと届けられたのでした。

作品中に登場するジュリエッタの屋敷で一人、ベートーヴェンがピアノの蓋に耳をつけ、『月光』を弾く場面、天に召されたカスパルの息子・カールをピアノの前に座らせ、自身が作曲した『エリーゼのために』を弾きながら幼い頃の話を聞かせる場面、そしてヨハンナとの和解、最後の演奏会となる『歓喜に寄せて』で彼が思い返す幼い頃のシーン……。

音楽に対する高潔さ、果てしない想い、そして大切なものを想う血の通った人間の温かさ。映画終盤、父から逃れ夜の森を走り抜けて湖から空を仰ぐ幼いベートーヴェンに降る星のように、見る側の心に無数に注いでくるようでした。