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日本での知名度は低いが隠れた名作!

格闘技を通して描かれる家族愛『ウォーリアー』

格闘技を通して描かれる家族愛『ウォーリアー』

『ウォーリアー』は2011年に本国アメリカで劇場公開された作品ですが、日本では未公開どころか、ソフト化されたのも公開から約4年後の2015年という、何とも勿体ない一本。「いやいや日本の映画配給会社はどこに目つけてんの?」と思うぐらいの隠れた名作でした。リバイバル上映を強く希望します!

総合格闘技イベント「スパルタ」に挑む兄弟

アル中の父親のせいで離れ離れになった一組の兄弟、元海兵隊の弟トミーと物理教師の兄ブレンダン。
共に袂を分かちそれぞれの人生を歩む二人が、国内最大級の総合格闘技イベント「スパルタ」で格闘家として戦う事になります。

このあらすじだけ聞くとジャンルとしてはスポ根映画の体を取っているようにも見えますが、実は非常に濃厚なヒューマンドラマ。

競技を通した成り上がりストーリーよりも父、兄、弟間の確執を軸に、それぞれが抱える葛藤に焦点を当てているからです。
そしてそれが非常に独特で味わい深い。

キャラ造形もかなり秀逸で、特に兄のブレンダンと弟のトミーの特徴がハッキリと分かりやすいです。

それぞれが罪と闇を抱える主要人物達

まずトム・ハーディ演じる弟のトミー。

アル中で暴れる父パディから逃げる為、母親と共に家を出るが、その母親も病死。
後に入隊する海兵隊でも戦場で親友を亡くします。
そして、自分たちが逃げる時に、一人だけ父の元に残った兄・ブレンダンに対して強烈な恨みも持っています。

ジョエル・エドガートン演じる、兄のブレンダン。
彼は高校の物理教師で、二人の娘の父親として幸せな生活を送っていましたが、娘が心臓病にかかり高額な治療費が必要に。
その為、住宅ローンの支払いが困難になりマイホームを手放す危機に直面します。
その危機を脱する為、元UFCの格闘家であった彼は、クラブで賭け試合に出場してファイトマネーを稼ぐことに。
しかしそのことが職場である学校にばれて、休職に追いやられてしまいます。

「孤独に生きるトミー」と「守るべき者の為に生きるブレンダン」というそれぞれキャラの異なった兄弟像が描かれます。

加えて、ニック・ノルティ演じる父親のパディ。
酒に溺れ自らが招いた家庭崩壊に、彼自身も強く罪を感じていました。
約3年間酒を断ち、ブレンダンとその家族に会いに向かうも「許すが信用はしない」と厳しい言葉であしらわれてしまいます。
元ボクサーとしてトミーに指導する為、共に生活をし始めますが、やはりどこか信用はされておらず「親父は酔っている方が良かった」と嫌みを言われる始末。

前半はそれぞれが抱える罪に喘ぐこの3人の主要人物と、周囲の関係性を見事に描き切っています。
特に試合前日にブレンダンがトミーに和解を求めるもその思いは届かず拒否されてしまうシーン。
どちらにも感情移入出来てしまう為、何度見ても悲しいシーンです。

親友を亡くし逃げるように軍を除隊したトミー。
現在の妻の為とはいえ、弟と共に父の暴力から逃げる事をしなかったブレンダン。
そして家庭崩壊の張本人となってしまったパディ。

それぞれがお互いわだかまりを持ったまま、世界最大の総合格闘技イベント「スパルタ」に挑むのです。

まるで試合を見ているよう…スパルタ開幕!

ここからはド迫力の試合のシーンが続き、臨場感が凄まじいです。
本当に映画ではなく総合格闘技の試合を観ているよう。
実際に、本物のMMAの選手等もシーンに出ているらしく、関節技の攻防やマウントからの攻撃等、リアルで見応えがあります。

トミーとブレンダンのファイトスタイルにも、先に挙げたキャラ造形同様ハッキリと違いを持たせているのも興味深かったです。

先ずトミーは兎に角一撃必殺。
鬼神の如く相手選手に襲い掛かり、豪快なKOでマットに沈めます。
そして勝利の余韻に浸る事なくそそくさとリングを去っていくのです。
個人的にはこの様子を実況者が「犯行現場を去るようにリングを後にします」と表現していたのが面白かったです。

一方ブレンダンは、試合が始まってからは何発も攻撃を受けたり投げられたり劣勢を強いられます。
しかし猛攻の中の一瞬の隙を突き関節技になだれ込み、相手選手からのタップを奪うのです。
トミーに比べてどこか地味なこの戦法にも、家族を持つ彼特有の人となりが表れているように感じました。

この試合の進行と同時に、この兄弟の周囲のキャラクターの葛藤や反応等も描かれます。
ブレンダンの試合に反対していた妻は、一試合目は夫の試合を観戦する事を拒みますが、メールで夫の勝利を知り歓喜し、翌日にはリングサイドで夫を応援します。

謎が多いファイターであるトミーの過去も、劇中でも徐々に紐解かれていきます。
彼は海兵隊時代に軍から逃げる途中、装甲車に閉じ込められた軍の仲間を助けた英雄だったのです。
そして優勝賞金を、戦場で亡くした親友の家族に寄付する事が、彼がスパルタへの出場動機である事も明かされます。

しかし初日の夜、パディはトミーになじられ悲しみのあまり長らく断っていた酒に手を出してしまいます。
朝ボロボロの父を見て自分の胸に引き寄せて眠らせるトミー。
息子が今まで憎んでいた父を許したかのような優しいシーンもありました。

拳を交えた兄弟の再生

そしていよいよ兄弟の決勝戦。
相変わらず打撃で責めるトミーに劣勢を強いられるブレンダンですが、関節技でトミーの肩を脱臼させます。
普通ならここで試合中断となるものの、戦いを辞めようとしないトミー。
片腕で必死に向かってくるトミーに首を決めるブレンダン。
そこで「もう辞めよう」「愛している」と言いながら絞める兄についにタップする弟。
激闘の中で遂に兄弟は和解するのです。

息子は父を許し、弟は兄を許し、完全ではないものの父、兄、弟の確執が解かれ映画は終わります。
言葉ではなく拳でお互いぶつかった兄弟、この描き方が本当に美しかったです。

格闘映画史に残る名作、しかし気になる所も…

役者陣の演技も素晴らしかったです。
特にやはりトミー役のトム・ハーディ。
ファイトシーンやその体つきも最高なのですが、何よりあの無口さと憂いを帯びた目つきが、トミーの抱える闇を上手く表現していました。

メインキャラではないものの、ブレンダンの親友でありトレーナーのフランクも好きでした。
クラシック音楽で選手を鼓舞し「リラックスしろ。ベートーヴェンを感じるんだ」とか、試合で劣勢に立たされた
ブレンダンに「お前は何しに来た?勝つ為に来たんだろ?ここで勝たなきゃ家を失うぞ」と奮い立たせたり、作中でもしれっと名言を残したキャラクターだったと思います。

唯、ここまで熱い名作のこの映画ですがツッコミ所が多いのも事実です。
無名の選手であるはずの兄弟がいきなりスパルタのような大きな大会にでられるはずもないので、正直少し無理があったようにも感じました。
そしてやはり、決勝戦でのトミーが肩を脱臼してもドクターチェックなしで試合が続行されるのは確かに違和感がありました。

とまあ、こんなツッコミも目を瞑れる程の名作であるのは変わりません。
個人的には数ある格闘映画の中でも珠玉の作品だと思います。
知名度は低いですが本当に色々な人に鑑賞してほしい一本です。