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今なお謎多い韓国・光州事件

真実を伝えるため、命をかけた男たち『タクシー運転手 約束は海を越えて』

真実を伝えるため、命をかけた男たち『タクシー運転手 約束は海を越えて』

1980年、韓国・光州(クゥワンジュ)市で起こったいわゆる「光州事件」。朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が暗殺され、その混乱の間隙を縫って全斗煥(チョン・ドファン)率いる軍政府が樹立。これに反対し、民主化を求めるデモ組織が各地で結集されます。特に軍政に反対した金大中(キム・デジュン)が逮捕された事で、彼の出身地である光州市の大学生や市民のデモ組織が過激化、韓国軍は空挺部隊を派遣して光州市を完全封鎖し、徹底した弾圧で反対派組織を殲滅させます。 その時の弾圧の実態や被害者数は今なお謎に包まれ、一部には北朝鮮部隊が潜入していたとの噂も絶えないこの事件。この映画はその事件を取材したドイツ人記者と、彼を運んだタクシー運転手、そして彼らを命がけで守った光州市民たちの、実話に基づいた物語です。2017年韓国で公開され観客数1200万人を記録した、その年No.1作品となった感動作です。

しがない男たちの出会いにより生まれた感動物語

主人公であるタクシー運転手は、男手ひとりで11歳の娘を育てるキム・マンソプ (ソン・ガンホ)。ソウル市内もデモ行進が絶えず、商売上がったりをボヤき、部屋の家賃を4ヶ月も滞納しているしがない男でした。
そんな毎日の生活に汲々としているマンソプは、同僚の運転手から「光州まで運べば10万ウォン」という情報を耳にし、その客、ドイツ人記者のピーター(トーマス・クレッチマン)を乗せます。

このドイツ人記者のピーターも、同じように日本での平安な取材生活に物足りなさを感じており、そんな時に韓国・光州市の騒動を耳にし、自身を宣教師と偽って訪韓した者でした。

サウジで働いた経験のあるマンソプと、韓国語のわからないピーターは、最初チグハグな英語と韓国語の会話でギクシャクします。しかし光州市についてからふたりの関係は一変。軍の検問を機転を利かせて突破したふたりは無事市内潜入に成功。そこで荒れ放題の市街地、怪我人で溢れる病院、市民のデモ隊に容赦なく暴行を加える軍兵を見て事の重大さを知ります。

この事態を取材するため、ピーターはデモ隊に参加する大学生ジェシク(リュ・ジュンヨル)に通訳をお願いし、マンソプは同業のタクシー運転手ファン・テスル(ユ・ヘジン) たちと知り合い、手を取り合っていきます。

しかし命の危険を感じたマンソプは、最初は事に関わりたくない一心で、2度目は事の重大さにおののき、3度目はソウルに残している娘を孤児にさせる訳にはいかないと、三たびピーターを見捨てようとします。
最初は「客を置いて逃げるのか」と詰問したピーターやファンも、私服兵に殺されそうになったマンソプの3度目の離脱には反対せず、彼は一旦光州脱出に成功します。しかし、光州市の暴動が軍によって実態からかけ離れたフェイクニュースとして流されているのを知り、苦渋の決断で光州に引き返します。

ここからが本当の修羅場。
国民を守るはずの自国軍が自国民を弾圧する様は、とても今からつい40年前の出来事とは思えない光景です。そしてその軍の暴挙に立ち向かう市民たち。あまりの悲惨さに呆然とするピーターを、マンソプは「取材を続けろ!」と奮起を促し、ファンをはじめ地元のタクシー運転手たちが、「真実を伝えてくれ」と命がけでふたりをソウルに送り返します。

コミカルな序盤からシリアスな展開を演じきる俳優陣たち

主人公マンソプを演じるのはソン・ガンホ。古くは「シュリ」、「JSA」で日本に韓国映画ブームを巻き起こした韓国の名優です。
最初は政治に無関心で陽気な一市民だったマンソプが、ピーターの取材に同行する中で、彼へ協力することに迷い、おののき、そしてその使命に共感する心情の変化を見事に演じています。光州に戻る際に娘にかけた電話で「お父さんには、どうしても届けなければいけないお客がいるんだ」というセリフには泣けます。

もうひとりの主人公、ピーターを演じたのはトーマス・クレッチマン。「ブレイド2」でアカデミー賞を受賞している名優ですが、注目はその生い立ち。東ドイツ生まれの彼はモスクワ五輪の水泳選手候補でしたが、その直前に西ドイツに亡命。その後演劇界に身を投じた経歴を持ちます。

最初は記者としての刺激を求めて訪韓したピーターは、自分が取材したことでジェシクを失ってしまい、大きなショックを受けます。それでも最後は涙を流してカメラを回し、この事実を世界中に伝えることに成功します。自由を求めて政府と戦う市民運動を取材するピーター役に、東ドイツ出身のトーマスを配したことは偶然なのか、実に絶妙です。

ピーターの通訳役の大学生ジェシクを演じたリュ・ジュンヨルは、韓国若手俳優のひとり。ジェシクは大学卒業後は芸能界希望なのに歌が下手くそで、それがマンソプたちに大受け。リュはそんな大人3人に可愛がられるキャラを楽しく演じ、それが最後の悲劇を増幅させています。

そしてこの映画で最も評価が高かったのは、時にマンソプと対立し、最後は命がけで彼らを助けたファンを演じたユ・ヘジンではないでしょうか。
当初日帰りのはずだったふたりが、車の故障で一泊せざるをえなくなり、ファンは彼らを自宅に招きます。その一家の団欒は誠に和やかで、対立していたマンソプとピーターがここで心を許し合います。そして最後ふたりを逃がすための活躍は、映画の演出だとわかっていても涙が止まりません。

見事なヒューマンストーリーに感動!

光州事件はこのマンソプ(実在の人物名はキム・サボク)とピーター(実在の人物名はユルゲン・ヒンツペーター)により世界中に報道され、これがきっかけで韓国の民主化は加速されていきます。韓国で国民の意思を伝える手段としてデモ行進が定着しているのは、この事件による実績があるためと言われています。

ただこの映画ではそのような政治色はほとんどなく、ただ一市民の視線で事件を目撃し、葛藤しながらも人間としての正義を貫いた主人公たちを描くことで、見事なヒューマンストーリーとなっています。韓国好きな人にはもちろん、最近急増しているであろう嫌韓派の人にも、これだけはぜひオススメしたい作品です。

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