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あなたはきっと、何度も騙されたくなる。

『ユージュアル・サスぺクツ』に勝るオチはなし!

『ユージュアル・サスぺクツ』に勝るオチはなし!

「オチのある映画」と言われて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。サスペンスやミステリー、ホラーなど、「衝撃のラスト」といった風に、最後にどんでん返しが待ち受けていることを謳う作品は少なくはない。例えば『シックス・センス』。映画の冒頭で「まだ映画を見ていない人には、決して話さないでください」とまで注意書きをして話題を呼んだが、勘のいい人には「ははーん、これはあのパターンだな」と分かってしまう程度である。もはや我々はそう易々とは驚かなくなってしまった訳なのだが、今回ご紹介する『ユージュアル・サスぺクツ』は一味違う。名人の落語や漫才コンテストで優勝したネタは何度見ても面白いように、この映画はその巧妙さに何度も騙されたくなるのだ。

面通しで出会った5人のユージュアルサスぺクツ(常連の容疑者)

始まりはカリフォルニア州サンペドロ。船上での昨晩のできごとだ。転がる死体に、流れるオイル。負傷しながらも船を爆破しようとしていたキートンが、カイザーという名の男に銃殺される。カイザーの顔は見えない。分かっているのは、その黒い影と声、銃を撃つ手が左利きだったこと。カイザーとは誰なのか、この疑問を植え付けて映画はスタートする。

場面は変わり6週間前のNY。銃器強奪事件の容疑者として面通しのために集められたのがこの5人だ。忍び込みのプロであるマクマナス、彼とコンビのフェンスター、爆薬のプロのホックニー、元汚職刑事のキートン、そして体の左側に麻痺のある詐欺師キント。何の手掛かりもなく釈放されることになる5人だったが、これだけの曲者を一か所に集めたことが警察の間違いだった。彼らはマクマナスが持ち掛けた強盗計画に乗ることとなる。しかしキートンは「面通しは普通、10ドルで雇われたホームレスと一緒に並ぶものだ。5人のワルを並べたりはしない」と訝っていた。彼の勘は正しかったのだ。この面通しも仕組まれた事だったのだから。

アカデミー脚本賞受賞のテクニック!現在と過去、どちらからも謎に迫る

物語は二つの時間を交差しながら進んでいく。一つは 5人が出会ってから惨劇に巻き込まれていく時間。もう一つは現在だ。

冒頭で起こった船上での事件では、27人もの遺体と2人の生存者が確認された。生き延びたのはハンガリー人乗組員とキントである。昏睡状態で病院に搬送された乗組員はFBIに引き取られ、キントは警察署で保釈されるまでの2時間、関税局員に取り調べを受けることになる。この二つの時間軸が重なる時まで謎解きは続く。
取り調べによりキントが5人のストーリーを語ることになるのだが、そこに意識を取り戻した乗組員から語られる情報がどんどん食い込んでくる。昏睡から覚め、犯人を見たと言う、似顔絵を作成する、この似顔絵が届く。これらのカットバックが絶妙なタイミングなのだ。異なった場面が、やがて一つの解に繋がるという巧妙さ。この映画を見出したらもう、それが2度目だろうが5度目だろうが、時間の経つのが早いこと早いこと。脚本賞受賞に納得するであろうこと間違いなしだ。

「WHO IS カイザー・ソゼ」

この映画の魅力の一つが「カイザー・ソゼ」という人名だ。昔、内村プロデュースという番組で、あるお笑い芸人が大喜利のお題に対し「カイザー・ソゼ」と回答したところ、映画好きのウッチャンのツボにはまるということがあった。話が逸れたが、それだけ頭に残る名前であり、残るように映画の中で何度も何度もフルネームで呼ばれている。「悪魔の名はカイザー・ソゼ」「カイザー・ソゼの名を言ったか?」「ボスはカイザー・ソゼだ」「カイザー・ソゼは実在しない」「いい子にしないとカイザー・ソゼが来るぞ」。劇中でも伝説と共に異国を漂わせるシーンで描かれているカイザー・ソゼ。彼は何者なのか、誰なのか。どこの国の名前か検討もつかない響きであるこの名前、映画を見終わったならばあなたの頭にも刻み込まれるだろう。
 

アカデミー助演男優賞を受賞したケヴィン・スペイシーの語り

オチが分かっていても何度も楽しめると紹介しているので、多少のネタバレ覚悟で話させていただこう。この映画のクライマックスは、キントが釈放された後、カイザー・ソゼが誰かを突き止めた気でいる関税局員が、取り調べを行った刑事の執務室で雑多な室内を見回してあることに気付き、コーヒーカップを落とすところからだ。全てがカイザー・ソゼの罠であったことに気付いたのだが、時すでに遅し。
ケヴィン・スペイシーのセリフが交錯するこのシーンは短いのだが、オチを知っていても「待ってました!」と言いたくなるぐらいに、実に綺麗に今迄の出来事が回収されていく。
この作品でケヴィン・スペイシーはアカデミー助演男優賞を受賞したわけだが、障害者を見事に演じ切ったからか?そんな訳がない。詐欺師のキントはよく喋る。不安をごまかすようにどうでもいいことを喋っているのだが、この伏線となる会話の表情、ソゼの事を語るキントの狡猾な表情を見て欲しい。取り調べでは怯えて見せ、ラストでは観客全員を騙したことに満足しているかのような表情を見て欲しい。もう一度頭から見直して、彼に騙されたいと思うこと間違いなしだ。

さいごに

監督にも触れずにはいられない。というのもこの作品を撮ったブライアン・シンガーは、2018年の大ヒット作『ボヘミアン・ラプソディー』の監督だからだ。しかし彼は2016年公開『X-MEN: アポカリプス』で撮影を中断し、『ボヘミアン・ラプソディー』でも撮影中断に至り解雇されている。度重なる現場放棄に加え、性的暴行被害の訴えも起こされているとの話もあり、今後の活動が心配になるところだが、『ユージュアル・サスぺクツ』ではケヴィン・スペイシーがアカデミー助演男優賞、『ボヘミアン・ラプソディー』ではラミ・マレックが主演男優賞を受賞している。俳優の名演技を引き出せるのは監督の力量によるところも大きいはず。次回作の公開に期待したい。