「クイズ$ミリオネア」に登場した無学の青年。回答は何一つ知らない、人生の中にすべて答えが現れていただけだ、彼は言う。青年は勝ち進む。残す問題はあと1問。正解ならミリオネアだ。彼はインチキなのか?ツイていただけなのか?本当は天才だった?それともこうなる運命だった…?
ようこそ「クイズ$ミリオネア」へ
インドのスラムで育った青年ジャマールが「クイズ$ミリオネア」に出演、回答している場面から物語は始まる。しかし次のシーンでは彼は警察で取り調べを受けている。
あの番組でジャマールは残り1問まで登り詰めていた。スラム出身で教育を受けたはずのない男、外資系携帯電話会社のコールセンターでお茶くみをしているような人間が、なぜここまで正解できたのか。警察官からカンニングを疑われ拷問を受ける。
それでも嫌疑を受け入れないジャマールの前に警部が取り調べに現れる。「回答は知らない。」しかしジャマールが話し始めた彼の生い立ち、そのストーリーの中にクイズの答えが必ず出現するのだった。
「クイズ番組」「取り調べ」「彼の人生の回想」が入れ替わり現れ、この映画は進んでいく。
語られはじめた生い立ち
ジャマールは兄のサリームとともに育った。幼い二人が通う学校の教室には子供たちがあふれ、先生の読む『三銃士』の一節を元気よく復唱する。
ある日二人はあこがれの大スターに遭遇する。ジャマールはピンチを潜り抜けて彼のサインを手に入れるが、サリームが横取りし勝手に売り払ってしまう。知恵と勇気でほしいものを手に入れようとするジャマール、悪知恵と行動力でそれを横取りするサリーム。この一件はその後の二人の関係を象徴しているのだ。
出会いと別れ
突然生活が一変する。自分たちの暮らす地域に暴徒が押し掛けた。母は目の前で殺される。その時見た光景の中にもクイズの回答が含まれていた。家が焼き払われ、二人だけで野宿するそばに一人の女の子が立ち尽くしている。「学校で読んでいた三銃士の物語、アトスとポルトス、三人目は誰なんだろう?」二人はその少女、ラティカを仲間に入れた。
三人はママンという男に保護される。しかし彼の正体は子どもに物乞いをさせるギャング。そのためならば子どもの体の一部を欠損させても構わないというやり方だ。彼に気に入られ取り入っていたサリームだったが、ある晩ジャマールを連れて逃げ出す。クイズの回答、諳んじられるある詩の一節。しかしラティカだけは逃げ遅れてしまった。
少年から青年へ
二人は暮らしていた土地を離れ、タージマハールの違法ガイドなど観光客をだまして金を作るようになった。賢い二人は生活にも困らなくなってきたがラティカのことが忘れられないジャマールはサリームとともに元の街へ戻る。ここにもクイズの回答になる会話が現れた。
売春宿で売り物にされるのを待つばかりだった彼女を連れ出そうとするが、あのママンたちに見つかりサリームが彼を殺す。そしてクイズの答えがある。ついに自由の身になったラティカとジャマールはお互いの思いを語り合うが、サリームはママンと敵対するギャングと通じ、ジャマールは追い出されてしまう。
再会したものの・・・
その後ジャマールは一人生きていく。そしてたどり着いたのがコールセンターでのお茶くみの仕事だった。ここでも何度目かのクイズの回答が組み込まれていた。この職場で流れていたテレビ番組が「クイズ$ミリオネア」。それをしり目に、ある時無理やりオペレーター席に座らされたジャマールは兄・サリームの電話番号を見つけ出し、再びサリームに会いに行く。
憎んでいた兄の家で過ごす。何か悪事に手を染めているらしいサリームは隠れて神への祈りをささげる。サリームの外出の後をつけたジャマールは、ついにラティカと再会する。しかし、彼女が囲われていた家はママンと敵対していたギャングのボスのもの。彼女は殴られているのか顔にあざがある。テレビで流れているクリケットの試合。これもクイズの答えだった。
想いを伝えるジャマールに「だからなんだというのか」と突き放すラティカ。愛だけでは救われないことを彼女は何度も経験してしまっている。去り際に「5時に駅で待つ。君が来るまで毎日待つ。」そう伝えるジャマール。
立ちふさがった壁
5時を過ぎた駅に一人たたずむジャマール。黄色の洋服を着たラティカが遠くのホームに現れた。子供のころにも黄色のワンピースを着ていた。ジャマールと幸せな時間を過ごしているラティカの服は黄色なのだ。互いの存在を確かめたのもつかの間、ボスに命じられたサリームたちが彼女を追いかける。再びとらわれ、顔をナイフで傷つけられるラティカ。サリームはまた強引な手でジャマールから大切なものを取り上げた。
クイズシーン。生放送のCM休憩中、トイレでジャマールに司会者が声をかける。答えに全く心当たりのないジャマールにわざと間違えた回答を教える司会者。もちろんジャマールはそれには乗らない。そして正解した。残りは1問、放送は明日に持ち越され通用口から帰ろうとするジャマールを突然警察官が現れパトカーに押し込んだ。あわてて問い詰めるスタッフに「俺の教えた回答を選ばなかった。回答できるはずがないのに」「俺の番組だ!」と司会者はうそぶく。
動き出した運命の歯車
ラティカもクイズの回答権も権力をもった人間にとりあげられてしまったジャマール。彼を救ったのはそれまで敵対していた人物、サリームと取り調べ担当の警部だった。警部は取り調べの間、幼いころから彼の身に起こったこととクイズの回答がリンクしていることを信じがたく考えていたが、ジャマールの言葉は一貫して筋が通り、そして彼の聡明さを表すものだった。ジャマールは解放され、翌日の番組に再度出演が叶う。
サリームはいつでもジャマールの聡明さと望みを手に入れる強さを知っていた。そのたびに感嘆しては邪魔をして取り上げてきたが、今度は自分の携帯電話と車のカギをラティカに渡し彼女を開放する。
無事に逃げ出したラティカは渋滞する路上で車を降り、街中でテレビを見る人ごみの中「クイズ$ミリオネア」で最後の一問に挑むジャマールを見つける。彼女の笑みがこぼれる。
最後の問題はあの「三銃士」から3人の名前、アトス、ポルトス、そして最後のもう一人を問うものだった。ジャマールにはわからない。学校の授業ではアトス、ポルトスの名前までしか習っていなかったのだ!
最後のライフライン(文字通り彼の人生の命綱!)「テレフォン」を選択して、ジャマールは唯一知っている電話番号を使う。しかし相手は出ない。その相手はサリーム。サリームの携帯電話はラティカが停めた車の中にあった。気づいたラティカが電話をとる。再びつながったジャマールとラティカ。そしてその声にテレビ越しに気づいたボスはサリームを探しバスルームでの銃撃戦で相打ちとなった。静かにほほ笑むようなサリームの死に顔。
ファイナルアンサー
障害は消えつつある。最後に残った二人へのハードルはこの答えだけだ。ラティカも答えを知らないという。ジャマールが決めるしかない。もちろん彼も何も知らない。
選んだ回答、A:アラミス。理由はそう思ったから。
正解!!
この瞬間、ジャマールはすべてを手に入れたのだった。
すべて運命だった。
インドの無学で賢い青年が愛する女性と財産を勝ち取り、ヒーローに成長してく様を描いた物話。インドらしく、エンディングはダンスで締めてくれます。
青年を主人公に描くことが得意なダニー・ボイルと、インドが出会った現代のおとぎ話でした。