2017年に公開された、スタイリッシュでハイテンポ、音楽愛に満ちた“ドライビング・アクション”映画『ベイビードライバー』。 映画ファン、評論家の双方から大絶賛を受け、アカデミー賞でも3部門(音響編集賞、録音賞、編集賞)にノミネートされた『ベイビードライバー』の監督を務めたのが、エドガー・ライト監督でした。 マーベル映画『アントマン』の脚本も務め、今や全世界の映画ファンの注目をあつめるようになったエドガー・ライトが、まだ無名時代に製作しイギリスでヒットしたものの、日本では劇場未公開だった作品があることをご存知でしょうか? 『ショーン・オブ・ザ・デッド』。 2019年3月29日に、15年越しに日本での劇場初公開が決定した傑作ゾンビコメディ映画の魅力に迫ります。
仲良し三人組が作りだした“スーパーハイテンポゾンビコメディ”映画
監督エドガー・ライト、主演・脚本サイモン・ペッグ、共演ニック・フロスト、『ショーン・オブ・ザ・デッド』を生みだしたのは、このトリオでした。
元々、『スペースド』というイギリスのTVドラマで現場を共にしていた三人が、その後チームを組んで映画製作に取り組んでいくことになります。
主演サイモン・ペッグは、本作のヒットをきっかけに『ミッション:インポッシブル3』(2006)に出演し、その後同シリーズの毎回出演する程の人気キャラクターとなります。
その他にも「スタートレック」シリーズやスティーブン・スピルバーグ監督作品にも多数出演するなど、映画ファンにも広く知られる存在となります。
助演のニック・フロストも、『トゥームレイダー ファーストミッション』(2017)などに役者として出演するだけでなく、『宇宙人ポール』(2011)では脚本にも参加し(サイモン・ペッグとの共著)、マルチな才能を発揮しています。
あらすじ
家電量販店に勤める冴えない販売員ショーン(サイモン・ペッグ)は、彼女リズとのデートも毎回行きつけのパブに、腐れ縁で無職の友人エド(ニック・フロスト)を引き連れてくる始末で、とうとう愛想を尽かされてフラれてしまいます。ヤケになりエドと共にパブで泥酔した翌日、なんと一晩の内に街中にはゾンビが溢れかえっていたのです。
自らの大切な存在であるリズと母親を守ろうと、ショーンはエドと共に奮闘するが、、、
とにかくリズム、テンポのいい編集が、本作、そしてエドガー・ライト監督の演出最大の特徴と言ってもいいでしょう。
そのテンポに決まりのいい音楽や効果音を交えることで、観客に得も言われぬ心地良さを与えています。
劇中「パブを目指す」→「行くまでに大量のゾンビがいる」→「仲間の中に役者がいる」→「ゾンビの芝居をしてパブまで向かう」といった具合に、登場人物たちの目的が常に明示された状態でストーリーが進むのも、鑑賞しやすいリズムをもたらす優れた配慮と言えます。
ゾンビにより他人、知人、友人たちが続々と死んでいくシーンも、イギリス的なブラックユーモアで、残酷な描写もほぼコメディに落とし込んでいます。
また、主人公コンビに一般社会ではダメ人間という設定を与え、サイモン・ペッグ、ニック・フロストの個性を最大限活かすことにも成功しています(二人とも酒、ゲーム、寝不足からのあくびがよく似合う)。
実は三部作!? アイスクリームで繋がるシリーズ作品とは?
『ショーン・オブ・ザ・デッド』は、ゾンビ映画の金字塔である『ゾンビ』をパロディにしてオマージュを捧げていますが、その『ゾンビ』の監督でありゾンビの生みの親、ジョージ・A・ロメロは本作を絶賛しています(その縁でサイモン・ペッグは、後のロメロ作品にカメオ出演している)。
そして本作を含む、エドガー・ライト監督、主演サイモン・ペッグ、共演ニック・フロストのトリオは、『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』(2008)、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2014)を製作しており、この3作品は“スリー・フレーバー・コルネット3部作”と呼ばれています。
作品の世界観などで繋がりがあるわけではありませんが、同じ製作スタッフと言うことに加え、3作品全てに同じアイスクリームが登場し、それぞれの色が作品を象徴しているという共通項があります(『ホビット』シリーズ主演のマーティン・フリーマンも、3部作全てに出演している)。
『ショーン・オブ・ザ・デッド』はストロベリー味=血みどろの赤、『ホット・ファズ』はブルーオリジナル味=警察、『ワールズ・エンド』はグリーンのミントチョコチップ味=SF、といったようにです。
ちなみに、上述したように『ショーン・オブ・ザ・デッド』は当時日本では劇場未公開でしたが、『ホット・ファズ』も同様に、当初は劇場での公開が決まっていませんでした。
しかし、映画評論家・町山智浩らの呼びかけをきっかけに、インターネット上で公開を求める署名が集まっていきます。
結果『ホットファズ~』は劇場公開を勝ち取り、より多くの日本の映画ファンにエドガー・ライトやサイモン・ペッグの存在を知らしめることになっていきました。
『ワールズ・エンド』以降、このトリオの作品は製作されていません。
次にこの3人が撮る映画が見られるのはいつになるのか? まずは3部作を観て、その時を待ちましょう。